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Original Story and Character Concepts by Rei Hiroe Directed by Ei Aoki Animation Produced by Studio TROYCA Original TV Animation

Re:CREATORS(レクリエイターズ)

interview

2017.06.10

Re:CREATORS キャストインタビュー #03 坂本真綾

“Re:CREATORS(レクリエイターズ)” に登場する、個性的なキャラクターたち。その登場人物たちに命を吹き込むキャストのみなさんに、本ウェブサイト限定掲載のインタビューを行いました! 村川梨衣さんに続いて、連載第3回目となる今回は、築城院真鍳役を演じる坂本真綾さん。真鍳役を演じる中で坂本さんが感じた芝居にかける思いとは?


歌うように楽しみながらセリフを言っている

──あおきえい監督の作品には “空の境界” 以来のご参加ですね。

坂本:そうですね。あのときも思いましたけど、やっぱりあおき監督の作品は素晴らしいです。この作品のオーディションは、放送よりもずいぶん前だったんです。そこからの準備期間の長さを想像すると、この作品にみなさんがかけている熱量のすごさを感じます。だからこんなにいい作品になるんでしょうね。

──オーディションのときのお話をうかがえますか。

坂本:私はオーディションでは真鍳とアリステリアとセレジアの三役を受けました。真鍳がいちばんアクの強いキャラクターで、難しそうだし、面白そうな役でもあったので、印象が強かったですね。真鍳役に決まったと聞いたときは、すごくうれしかったです。楽しそうだな、って。

──役の印象についてもう少しうかがえますか?

坂本:オリジナルのストーリーで先々の展開を知らないこともあって、真鍳の本質というか、どんな企みを持っているのか、はじめのうちは掴みきれないところがありました。登場してきた瞬間から結構凶暴な雰囲気があるし、笑顔で残酷なことをするようないかにもな悪役タイプだったので、ほかのキャラクターにわりと正義の味方みたいな人が多いこともあって、「わかりやすく敵役をやればいいのかな?」と最初は思ったんです。だから初めて登場する回のテスト収録では、腹黒さというか、内に秘めた悪巧みが見え隠れするようなイメージで演じてみたんです。そうしたら監督や音響監督さんから、「ただこの状況が楽しくてしょうがない、裏のない役」「声もあまり低くしないで、かわいく」と言われたんです。そこからはとにかく真鍳は「悪そう」じゃなくて「楽しそう」な子なんだと理解しています。

──目つきや表情はかなり怖いです。

坂本:歯もギザギザで、怖いですよね(笑)。でも見た目が悪そうだからこそ、あえて声の方では同じ方向性を上乗せしなくてもいいのかな、と。表情で不気味さは伝わるし、逆に、そういう表情の人がすっごく楽しそうにしゃべっていると、そのミスマッチ具合がより一層ミステリアスに、不気味に見えるのかもしれないな、と。

──「楽しそう」というのは、ある種の愉快犯のような感じでしょうか? それとも、もっと邪心がない?

坂本:うーん……愉快犯の一種ではあるんでしょうけど、回を追うごとに、自分の世界から飛び出して与えられた自由に喜びを感じているというか、自分の人生を生きることに貪欲なタイプだとわかってくるんです。そういう意味ではあんまり、愉快犯という感じはないです。実は他のどのキャラクターよりも自分の置かれた状況を客観的に見ていて、起きてしまったことについてあれこれ考えてもしょうがないと思っている。「こうなったからには今を生きなきゃ!」というような、前向きなところがあるんです。

──たしかに他のキャラクターが元いた世界と現実とのギャップや、自分の立場に悩むことが多い中で、出てきた直後から悩みがないですね。

坂本:そうなんです。原作者を殺してしまったところも、他のキャラクターたちと違う点ですよね。惨いことですけど、ためらいなくそういうことができたのは、「自分の人生を自分のものとして生きたい」という気持ちが強いからかもしれない。あるいは、その物語の中で自分の与えられた役、悪者として描かれたことに対して不満があったのかも。誰かが敷いたレールの上ではなく、自分の人生を選んで生きたいという思いがあるのかなと思います。

──真鍳は精神的な攻撃力もとんでもないですよね。登場して早々に状況をひっかきまわします。こうした人の心理を操る役を演じるにあたって、意識されたことはあります?

坂本:とにかく登場するとすごくしゃべるんですよ。相手に考える隙を与えないぐらい、ペラペラと畳み掛けるようにしゃべって、その話術の中で相手をコントロールしていく。ヘラヘラとした態度で、まるで冗談でも言っているようなんですけど、実は痛いところを突いてくる。そういう攻撃の仕方が実に巧妙なんですよね。下手すると私、何ページひとりでしゃべっているんだろう? と感じるくらいに長台詞をしゃべるところがあって(笑)、やっぱり役者としては長いセリフには緊張するんです。「間違えないように」とか、「尺(映像の長さ)にきちんと収まるように」とか。もちろん、そういうことも考えなきゃいけなかったんですけど、それ以上に、とにかく真鍳の言っていることがツルツルと右から左に流れすぎないようにすることを意識しました。お客さんが聴いていてハッとしたり、「ん?」と考えたりするように、意味をきっちり伝えないと、真鍳の術のすごさが伝わらないと思ったんです。だから長いセリフをまずは私自身が咀嚼して、理解して、意図を心底わかる必要がありました。

──なるほど。

坂本:でも不思議なもので、キャラクターがしゃべりながらぐにょぐにょ動くと、その動きにひっぱられてこっちも演技の幅を広げてもらえるというか、動きのおもしろさでセリフにも自然と動きが出てくるんですよね。映像にもとても助けられました。

──そういえば、真鍳は普通に立ってしゃべっているシーンの方が少なそうですね。

坂本:動きだけだと、結構おちゃらけて見えるキャラじゃないかと(笑)。動きといえば、食べたり飲んだりしながらしゃべっているシーンが多いのも印象的ですね。「この世界に出てきてみたら、口に入れるものがこんなに美味しいなんて」というようなセリフをよく被造物の皆が言うんですけど、それもあってか、しょっちゅう何かを食べている。食べていると隙があるように見えるんですよね。だから物騒なことを言っていても一見そうは聞こえない。演じていて面白いところです。真鍳は鼻歌を歌うシーンも多いんですが、とにかくうきうきしすぎて鼻歌が止まらないんだろうなって。すべてのセリフがその延長線上にあればいいのかな、とも考えていました。歌うように楽しみながらセリフを言っている感じ。

──ちなみに、鼻歌のメロディは坂本さんにおまかせだったんですか?

坂本:基本的に台本には「鼻歌」と書いてあるだけなので、そうですね。商店街をらんららんら歌いながら来るところとか。でも一カ所だけ、実在する曲の「この部分を歌ってください」と指定があるシーンもありました。

──坂本さんのファンには聞きどころですね。

坂本:いやいや、ただ楽しそうに歩いているだけなので(苦笑)。ほかにアフレコで意識したのは、話している相手にダメージを与えるしゃべり方です。

──「ダメージを与えるしゃべり方」というのは?

坂本:たとえば文字だけでも読んだときにキツいような、相手の痛いところを突くセリフがあったとして、そこでドスをきかせてしまうと、まあ、普通なんです。真鍳としては、あえてそこを明るすぎるくらい明るく言ってみるとか、笑いを交えながら言ってみる。そうすることでおちょくり感が出るというか。鋭いパンチ以上にじわっと効くパンチが繰り出せるかなと。文字から受ける印象とあえて逆の発し方をしてみることもありますね。私の中でもいろいろと実験していました。

──そのほかに苦労したり、こだわったシーンやセリフはありますか?

坂本:本当に毎回難しいと思いながら演じていたんですけど……ひとつは初登場シーンですね。真鍳の第一印象を決定づける大事な場面なので、やっぱり気合いは入りました。でもあえて、あまり事前に考えすぎないようにして、アフレコ当日にほかのひとの演じているセリフを聴きながら、出たとこ勝負でやってみよう、みたいな感じでした。計算通りにやるより、その方がいい気がしたんです。この役に関してはほかのところでもそうですね。毎回、頭の中で練り過ぎない。他のキャラクターもみんな濃いので、自分のキャラクターのことだけを考えていても、全体の中での役割が果たせない気がしたんです。真鍳は他のキャラクターと一対一で話すシーンが多いですし。どれもその瞬間ごとに生まれるお互いの化学反応みたいなものがあって、楽しかったです。特に真鍳対アリステリア、真鍳対颯太のふたりきりのシーンは、静かな格闘技を見ているようで、すごく印象に残っていますね。

──台本は読み込み、セリフの意図は理解した上で、アフレコはアドリブ的に行われるということでしょうか。

坂本:私は、真鍳というキャラクターの大事な、真髄の部分では迷いはないですし、「こういう役だ」と確信を持って演じていたつもりです。何を言いたいのかは理解しつつ、そのセリフをどんな声で、どんな風にしゃべるかは決めないでおこう、みたいな感じでした。そんな中でも難しかったセリフといえば、第10話で弥勒寺の板額(はんがく)を奪ったとき。最後の「第一部完、朝日に向けて決めポーズなのだ」というセリフは「とにかく可愛くやってほしい」というディレクションで。私、真鍳の中にある「可愛い」って全然わからなくて(笑)。あそこは本当に苦労したというか、なんだか妙に恥ずかしかった覚えがあります(笑)。真鍳、イキのいい普通の女子高生なんですよね。他の重要なシーンとかよりも、そういう、いってしまえばどうでもいいようなところで、人知れず苦労をしたりしていました(笑)。

──そのセリフもですけど、真鍳の語り口には広江礼威先生らしい面白さを感じました。

坂本:独特な語尾の台詞回しは、最初は口になじみにくいところもありました。「〜なのだね」とか「〜かなかな」とか、あまり普段聞かないので、どう読むのが正解なのかわからなくて、とりあえずやってみるという感じでした。でもそれがだんだん真鍳らしさに繋がって、キャラクターの個性をイメージしやすくなっていったんです。「真鍳といったらこういう感じ」と、キャラクターの設定に助けてもらったような。私、個人的にこの “Re:CREATORS” という作品はすごくおもしろい作品だと思っていますし、ほかのキャスト陣も「本当に面白いね」と言いながらアフレコしているんですよ。キャラクターそれぞれの個性がいきいきと描かれているし、セリフの中に、サラッとしているようで実はすごく心に沁みるフレーズがある。脚本が本当に素晴らしい。この作品の中にクリエイターのみなさんの苦悩を描いた部分がありますけど、実際の作品づくりもそうだと思うんです。そうして大事に作られた脚本で、クリエイターさんたちが描きたいと考えたものを、私たち声優はなんとか具現化するべく、声としてお手伝いする立場なんだ。そう、この作品を通じてあらためて考えさせられました。


坂本真綾
主な出演作―“劇場版 空の境界”(両儀式) “黒執事”(シエル・ファントムハイヴ) “攻殻機動隊”(草薙素子) “〈物語〉シリーズ”(忍野忍)など多数

インタビュー・構成―前田久